パナソニックが百年間変わらず作り続け、今でも年間10万個も売っている製品とは?

7月10日、パナソニックさんの配線器具工場見学会に参加してきました。


津工場を正面玄関から望むの図

創業者である松下幸之助氏が、同社の初めての商品であるアタッチメントプラグを発売したのが1918年のこと。見学会はちょうど100周年の節目を記念して実施され、同社の物づくりのルーツを見ると共に、脈々と受け継がれてきた理念やこれからの商品作りに向けた考え方を学ぶものでした。


工場内にある配線器具記念館も見学しました

この津工場はパナソニック・グループの中でも、住宅やビル・公共エリアなどで使われる技術や製品を扱うエコソリューションズ社に属しています。

ちなみにパナソニックは、エコソリューションズ社のほかは、家電を扱うアプライアンス社、B2Bソリューション事業を扱うコネクティッドソリューションズ社(元マイクロソフトの樋口社長のところ)、車載機器やインダストリアル機器を扱うオートモーティブ&インダストリアルシステム社があり、全部で4カンパニーによるグループを形成しています。

さて、津工場は三重県の県庁所在地である津市にあります。津市を工場の立地に選んだのは、当時戦時中で大阪に工場が建てられなかった為なのだとか。

アクセスが意外と面倒で、東京からだと新幹線で名古屋駅に出て、JR関西本線で桑名、四日市、鈴鹿とたどり、津駅で下車します。工場のある藤方は、そこからさらにバスで15分ほど南下して、伊勢湾にある安濃津や阿漕と言った土地の先になります。

この辺りは平安時代の前から町や村の栄えていた地域で、歴史好きには馴染みの土地が多く見られます。高い山もなく開けていて空が低いのが印象的でした。

工場に到着するとまずは、白澤ビジネスユニット長がパナソニックの事業における配線器具の位置付けについて語り、続いて足立配線カテゴリー長が配線器具の歴史と展開について、最後に吉岡工場長が工場の概要について順番に述べていき、とても勉強になりました。


見学会の様子。先にスライドベースでの解説が行われました

配線器具」と言われても、ピンと来ない人も多いかと思います。簡単に言うと住宅やオフィスの壁にあるコンセントの差込口や電球の挿し込み口、電灯のスイッチなどのことです。

先述の通り、パナソニックの前身である松下電器の歴史は、アタッチメントプラグの製造から始まりました。電球の受け口を想像すると、ほぼそれです。驚いたことに、このアタッチメントプラグは発売から百年が経過しながら、ほぼ原型のまま未だに出荷しており、年間約10万個も販売しているそうです。


アタッチメントプラグは百年前とほぼ変わらない製品。マジで!?

一体どこで使っているのかと思ったら、縁日などの屋台や烏賊釣り漁船などでよく使われているそう。おびただしい数の烏賊釣り漁船の集魚灯を写した夜の衛星写真がニュースになったことがありましたが、パナソニックなくしてあの光景は有り得なかったのかと考えると妙に感慨深いところ。


烏賊釣り漁船は実物を見たことはありませんが、屋台の明かりは確かに使われている見覚えがあります!

同社の創業当時、日本の家屋は電気を配線する前に建てられたものがほとんどでした。建物に電線を引き込む必要があった為、引き込んだ電線は、屋内を這わせて部屋の中央などにアタッチメントプラグで天井から吊るして電球を嵌め込んで使いました。電気製品を使うときは電球を外して、使いたい製品のプラグを挿し込んだわけです。

松下電器ではすぐに二又のソアタッチメントプラグを開発し、電球をいちいち外さなくてもプラグを利用できるようにしました。とはいえ、何か家電を使うときには部屋の真ん中に電源コードが垂れ下がる風景は暫く続いたのです。想像するとちょっとおかしいですね。


配線器具記念館での写真。古い家屋では天井の中央や長押の下から、電源ケーブルが垂れ下がっている光景がまま見られました

そんなパナソニックのルーツとプリミティブな側面が見られる津工場では、製品の設計、製造、検査、販売まで手掛けており、部品は金型から作って、組み立てまで一貫して行っているとのこと。年間8500万個の部品を生産しているというから驚きです。

配線器具は長期間に渡って、簡単かつ安全に電気を供給し続けられることが重要となるため、迷わず使える操作性や繰り返しの操作でも劣化しない高品質をずっと追い求めてきたそう。

例えば、コンセントにプラグを突っ込むだけで接続でき、解錠レバーですぐに外せるコンセントやスイッチの仕組みには、パナソニックの開発した技術が幾つも使われているとのことでした。

家屋のコンセントや電源がどういう形で進化してきて今のこの形になったのか分かり、大変興味深く面白い内容でした。


1950年代には露出配線器具が一般的でした。それが1960年代には、結線が容易で量産しやすいハイ角連用配線器具へと進化します


1970年代にはフルカラー配線器具へ進化。独自開発したフルカラーモジュールをJIS規格化して戦略的に普及促進を図るといった販売戦略も取っています


2000年代に入ると「コスモシリーズ ワイド21」を商品化。スイッチをワイド化して操作性を向上したほか、センサーも利用するようになりました


現在は2014年に発売開始したフラットなデザインで存在感を主張しない「アドバンスシリーズ」がスタンダード商材になっています

現在では国内だけでなく、世界各国の仕様に合った配線器具を製造して輸出しています。現在はアジアシェアではナンバー1ですが、2020年には世界シェアでナンバー1になることを目標に取り組んでいるそうです。


アジア市場は世界1位。過半数を占める日本、台湾のほかベトナムやタイ、トルコも約半数となっています。中国が少ないのがやや意外ですね


会場には各国のスイッチとコンセントが展示してありました。インドのコンセントってこんな形状なんですね


今後はスマートスピーカー経由による音声操作でOn/Offできるスイッチも開発していくとのこと

座学のあとは、工場のラインまで行って見学しました。

以下、詳しい説明は省きますが工場内の風景をダイジェストで。撮影禁止の場所では撮影していないはずなので、大丈夫だと思いますが…。

とにかく、とても満足度の高い工場見学会でした!


最初に見たのは金型のメンテナンス現場です


熱硬化性樹脂を成形する装置


熱可塑性樹脂を射出成形する装置


工場内を自走する無人搬送車。AGV(Automatic Guided Vehicle)と言います


天井走行式の無人搬送車。OHT(Overhead Hoist Transfer)や、RGV(Rail Guided Vehicle)と呼びます


検査の様子


製品の箱詰めも機械で自動化しています