かまどと同じ味でご飯が炊ける三菱電機の「本炭釜 KAMADO」はこうして生まれた

三菱電機さんの高級ジャー炊飯器「本炭釜 KAMADO」の取材記事を、サーイ・イサラさんの12月号に掲載して頂きました。紙媒体なので記事へのリンクはありません。

三菱電機さんの本炭釜は、炊飯器の内釜に純度が99.9%の炭を採用しています。99.9%ならほぼ100%と言って良いと思うのですが、ほんの微量でも違うものが混じっている可能性が否定できないならば100%とは表現しないというのが、三菱電機さんの社風。

「本炭釜 KAMADO」は、そんな社風の三菱電機さんが「これは竈と同じ味のご飯が炊ける」と言い切って商品名にした炊飯器なのです。ちなみに最新機種は「NJ-AWB10」です。

この自信の源はどこにあるのか。どんな開発経緯や苦労話があったのか。埼玉県深谷市の小前田工場へ行き、家電製品技術部の金井孝博次長と、営業部の八百幸史晃主事に話を聞いてきました。

サーイ・イサラ 12月号 日本のモノ語り「第50回 「本炭釜 KAMADO」(三菱電機)」

世界初の革新的な技術を取り入れた鹿島建設のトンネル掘削機「NATBM」を取材

鹿島建設さんの新しいトンネル掘削機「NATBM(ナトビーエム)」の取材記事を、サーイ・イサラさんの11月号に掲載して頂きました。紙媒体なので記事へのリンクはありません。

私がよく記事にする家電やIT系ではなく、売り物ですらない「道具」の取材です。畑違いではあるのですが、新鮮さも相まってとても熱くなれる取材でした。

NATBMはトンネルを掘り進む巨大なマシン、トンネル掘削機です。掘削機には実はいろいろな種類があります。トンネルというと、道路や地下鉄のトンネルを真っ先に思い浮かべますが、今回取材したNATBM(ナトビーエム)は黒部川電力新姫川第六発電所における水力発電用の導水路を作るためのトンネル掘削機です。

トンネル掘削機は目的のトンネルの直径に合わせて作るので、いわばすべてが特注品。使い終わると前方のカッターヘッド部はボロボロになっていて、他の現場で使い回すということはまずないそうです。新しいNATBMは、これまでにない革新的な仕組みを備えていて、NATM(ナトム)工法とTBM(ティービーエム)工法の2つの工法を1台で利用できる世界初の機械ということでした。

実物は流石に見られませんでした。巨大な機械を間近で見てワクワクしたかったので、その点はちょっと残念でしたが、稼働中は岩盤の中を掘り進んでいるので、見学することも写真に撮ることも物理的にできません。しかもこのトンネル掘削機という機械は、後ろにベルトコンベアなどの装置が連なる巨大な「システム」なので、基本的に前進しかできないように設計されており、後退させて入り口から出して見せてもらうなんてことはできないのです。

今回は鹿島建設の土木管理本部で統括技師長を務める西岡和則氏にインタビューして、新しくなったポイントや、なぜそれが今まで実現できなかったのかといったところを根掘り葉掘り聞かせてもらいました。

トンネル業界の常識など知らなかったことが沢山あり、目からウロコな驚く話が幾つも出てきて面白かったです。読者にこの面白さの何分の一かでも伝われば良いなと思います。

原稿を書く際に困ったのが、NATM工法とTBM工法の記載について。NATMは「New Austrian Tunneling Method」の略で、「新オーストリアトンネル工法」のこと。平たく言うとアルプス山脈のトンネル工事向けに開発された工法です。一方、TBMは「tunnel boring machine」の略で、「トンネルボーリングマシン」とそのまま片仮名になるとおり機械そのものを指します。つまり、NATMは本来略語の中に工法の意味が含まれるので、NATM工法という呼び方は二重表現なのです。しかし、トンネル業界ではもっぱら、工法のことも機械のことも、NATM、TBMで話は通るので、二重表現になることを気にする人など恐らくいないのでしょう。本文で説明するといたずらに長くなってしまって行数を取るし、悩んだ末、脚注で逃げました。こういうところは、雑誌作りならではの苦労かなと思います(笑)

サーイ・イサラ 11月号 日本のモノ語り「第49回 トンネル掘削機「NATBM」(鹿島建設)」

これぞパーソナルエアコン、富士通ゼネラルの首掛け式ウェアラブルエアコン「コモドギア」

富士通ゼネラルさんの首に掛けるようにして使うウェアラブルエアコン「コモドギア(Cómodo gear)」の取材記事を、サーイ・イサラさんの10月号に掲載して頂きました。紙媒体なので記事へのリンクはありません。

文字通り、身に着けることで体温を下げるエアコンです。ハンズフリーなので両手で作業しながら使うことができ、空調の乏しい倉庫やイベント会場、そもそも空調のない工事や建設の現場や農作業現場などで重宝するアイテムになっています。

量販店などでの取り扱いはいまのところなく、当面は法人向けのレンタルのみで提供となっています。これは専門家でないとメンテナンスができないからとのこと。将来は一般消費者向けにも販売したいとのことでした。

仕組みはいわゆるパソコンの水冷式と似ており、首の頸動脈からペルチェ素子で奪った熱を冷却水で腰に装着するラジエーターに運び、放熱しています。この仕組みを聞いたときに、水冷式パソコンの仕組みを理解しておいて良かったと思ったものでした。

パーソナルエアコンの可能性は非常に高く、様々なセンサーを組み込むことでバイタル管理などにも利用可能になります。スマートフォンからの操作や冬の暖房なども視野に入れていて、今後の展開がますます楽しみになる製品でした。

サーイ・イサラ 10月号 日本のモノ語り「第48回 Cómodo gear(富士通ゼネラル)」

料理好き主婦の憧れ、鋳物ホーロー鍋の「バーミキュラ」を取材

愛知ドビーさんの「バーミキュラ(VERMICULAR)」の取材記事を、サーイ・イサラさんの9月号に掲載して頂きました。紙媒体なので記事へのリンクはありません。

バーミキュラは密閉性と蓄熱性の高さで大人気の鋳物ホーロー鍋(オーブンポット)で、料理好きなら知らない人のいない商品です。家電ではありませんが、この連載は「日本の技術」に焦点を当てているので、ITや家電に縛られずに取材先をピックアップして欲しいと編集から言われ、それならばと提案したネタでした。

取材は名古屋まで行って、土方智晴副社長に対応していただき、バーミキュラが誕生した背景や苦労した点など、技術話を中心にしつつも副社長の情熱が伝わるよう、頑張って執筆しました。

凄く情報が多くて、伝えたいと思ったことも多く、一度書き上げた後に書き直したり、差し替えたりして使わなかったテキストが、完成した原稿の倍くらいあってそれなりに大変でした。

割愛したところでは、たとえばフライパンを発売した時のユーザーの反応について「ホーロー鍋で(メーカーとしての)信頼感が醸成されたので、フライパンを使って美味しく作れなかったという時に、フライパンを疑う前に、自分がなにか間違えたのではないかと研究してくれるようになった」と変化を語ってくれたものがありました。

これはとても印象的でした。逆に言うと最初にホーロー鍋のバーミキュラを出した時は、調理が上手くいかないと鍋のせいにする人が少なからずいたということだからです。ここを乗り越えたのは並々ならぬ努力であったのは間違いありません。他にもいろいろお話頂きました。思い出深い仕事ができて楽しかったです。

サーイ・イサラ 9月号 日本のモノ語り「第47回 バーミキュラ(愛知ドビー)」

家族の健康情報管理はブーツを脱いだシャアに繋がる!?ファミリーイナダのルピナスロボを取材

ファミリーイナダさんの「ルピナスロボ」の取材記事を、サーイ・イサラさんの8月号に掲載して頂きました。紙媒体なので記事へのリンクはありません。

クラウドに繋がるIoTなマッサージチェアとして、最初のモデルが登場した時は「なんじゃそりゃ」と思ったものでした。しかし、マッサージチェアに家族の健康情報を集約して管理するという発想は、考えれば考えるほど、実はとても合理的なんですよね。

今回見せてもらったモデルは、さらに国民的人気アニメ「機動戦士ガンダム」の超有名キャラクター、シャア・アズナブルを起用。そろそろ健康に気を遣いたい、40代や50代に訴求しています。実際のところ、マッサージチェアの購買層は60代以上が過半を占めています。一度虫歯になったらお手入れだけでは治らないように、肩や腰も治療が必要になる前にマッサージチェアでお手入れしてほしいと言っていたのが印象的でした。

このほか、面白かった裏話としては、シャアのブーツに関する逸話があります。アニメではシャアがブーツを脱いだシーンは1カットも存在しないそうで、宣伝用のビジュアルもブーツを着用したままだったそう。これでは製品の使い方で誤解を生じるからと、ファミリーイナダさんが創通サンライズさんに掛け合い、かつてない「ブーツを脱いだシャア」がお目見えすることになったのだとか。

実は私、ガンダムを見たことがないので、伝聞オンリーで「へえ~」と言っちゃう訳ですが、ファンの間ではレアなビジュアルだとして結構な関心を集めているそうですよ。

サーイ・イサラ 8月号 日本のモノ語り「第46回 ルピナスロボ(ファミリーイナダ)」

聴診器で耳を痛めているドクターに使って欲しい、デジタル聴診デバイス「ネクステート」

シェアメディカルさんの「ネクステート」の取材記事を、サーイ・イサラさんの7月号に掲載して頂きました。紙媒体なので記事へのリンクはありません。

ネクステートはドクターが自分の普段利用している聴診器に取り付けて使用できる、デジタル聴診デバイスです。手っ取り早く表現すると、聴診音のデジタル録音ツールとなるでしょうか。

取材に応じてくれた峯 啓真社長は、かれこれ20年以上前から細く長い付き合いを続けていただいている方です。知り合った時はデザイナー兼ライターだったのに、いつの間にか医療業界に飛び込んでシステムエンジニアになり、ソフトウェアを開発。やがて起業して、ハードウェアまで作ってしまっていた、多彩な才能の持ち主です。

以前から、彼がネクステートを準備していたことは聞かされていて(コードネームはハミングバードと言いました)、どこかで紹介できないものかと狙っていましたが、いかんせんコンシューマー向けではなく、家電量販店で販売するようなものでもないという、私とフィールドが重ならないプロダクトなので、なかなか機会が掴めずにいました。

今回、サーイ・イサラさんの「日本のモノ語り」という、日本の技術開発や職人芸を紹介する連載のネタとして推薦する機会があり、私自身が取材と執筆もできたのはとても嬉しかったです。

折角なのでこぼれ話も一つ。

峯さんに話を聞いた際、彼が開発時にドクターにヒアリングしていて、ドクター達が聴診器で通常の可聴領域と言われる範囲を超えて聴診音を聞き取っているため、ドクター同士でも情報交換が難しいと知ったと聞かされました。それは凄いと驚いて、素直に原稿に書いたところ、編集から「ドクターが可聴領域外の音を聞き分けるというのが理解できない。聞き分けられるのであれば可聴領域内ではないのか。ドクターになると超人になるのか」と突っ込まれて、結構苦慮しました。結局、「聞き取る」の表現を「感じ取る」に替えてどうにか編集者に納得してもらいましたが、自分が編集担当でも「これは突っ込むよなあ」と思ったものです。

同社では新型コロナ(COVID-19)罹患者の呼吸音を録音して共有する試みなども行っており、聴診器を通じて医療の発展に貢献しています。今後の益々の活躍が楽しみです。

サーイ・イサラ 7月号 日本のモノ語り「第45回 ネクステート(シェアメディカル)」

過去最大規模となったゲームショウ2019

9月12日~15日に幕張メッセで開催された、ゲームショウ2019のレポート記事を家電Bizさんに掲載していただきました。

一時期ぱっとしなくなっていたゲームショウですが、近年は盛り返してきていて、今年は過去最大規模の出展者数でした。

その原動力の1つが、eスポーツの追い風を受けるゲーミングPC市場です。PC本体、周辺機器ともに、高性能でデザインセンスの良い製品がどんどん増えています。実況の為のマイクとカメラ、キャプチャボードなど、これまでのゲーミングではあまり考えられなかった商品も引き合いが増えているそうです。

あまりゲームのタイトルは詳しくないので、記事ではそこらへんはさらっと流しています。

私が気になったポイントの一つが自作PC。キラキラピカピカの進化はもちろんですが、PC本体の中が覗ける透明ケースで、グラフィックボードの上で3Dの初音ミクが踊っていたりすると、もはやPCの自作は低コストや高パフォーマンスをせめぎ合うのとは違う領域に来ているのだなと感じてしまいました。

来年は、9月24日(木)~27日(日)開催です。

eスポーツや周辺商材の動きにも期待 ゲームショウ2019レポート

VESAがDisplayPortの最新情報を提供する記者説明会を開催

ビデオエレクトロニクス規格協議会(VESA)さんによる5月15日開催の記者説明会のレポートを、マイナビニュースさんに掲載していただきました。

正直なところ、VESAというとモニターアームとも呼ばれるディスプレイ用アームの取り付けピッチの寸法を規定した規格名として認知している人が多いと思います。これは通称で「VESAマウント」と呼ばれていますし、私も長らく、VESAがそれ以外にも策定している規格があったとは知りませんでした。

半分は自己弁護になりますが、「VESA規格」でGoogleで検索すると、もろにVESAマウント関連のページばかりがヒットしますから、ムリもないと思うのです。

実際は映像音声出力インターフェースである「DisplayPort」などもVESAが策定しています。

今回の説明会では、VESAのJames Choate(ジム・チョート)氏が登壇して、そんなVESAの概要や取り組み、4月19日に公開した「DisplayPort 1.4a」のアップデート内容、今後の計画など、幅広い情報が提供されました。

詳しくはマイナビニュースさんの記事で書いていますが、DisplayPort 1.4aではHBR3に準拠したDP8Kケーブルの仕様に対応しています。

ゲストで来ていた第三者検証機関「ALLION」の中山英明代表取締役社長に、軽く話を聞いたところ、「第三者検証機関がテスト可能な規格を増やすのは企業戦略的に大きな意味がある」と言っていて興味深かったです。

テストを申請するメーカーからすれば、1社で多数の規格をテストできる第三者検証機関のほうが、煩雑な秘密保持契約(NDA)のやり取りが1社分だけで済むようになって、コストも抑えられるし、事故のリスクも低減でき、選びやすいのだそう。なので、VESAなどの規格協議会とは密接な連携が必要になるわけですね。なるほどと思いました。


VESA、DisplayPort 1.4aの技術説明 – 1ケーブルで8K4Kを伝送

理工系のアイテムがてんこ盛りだった「Techno-Frontier 2018」

4月19日(木)、20日(金)と、幕張メッセで開催の「Techno-Frontier 2018」へ行ってきました。日本能率協会が主催し、448社/870ブースが出展する、メカトロニクス・エレクトロニクス分野の要素技術と製品設計支援の専門展示会となっています。


Techno-Frontier 2018に行きました

少々小難しい印象かもしれませんが、専門性が高いという意味ではその通り。来場者の約半分はエンジニアや研究職が占めるとされ、ブースに立つ説明員も社内の技術者がそのまま来ていて、来場者とディープな情報交換をしていたりするのが特徴です。

Techno-Frontierは複数の専門展示会で構成していて、最も歴史の古いのが36回目となる「モータ技術展」。モータ技術展は会場の面積が最大で、ブース数も多く、大小様々なモーター及びモーター関連製品と技術がてんこ盛りです。出展者も自身を機械屋と呼ぶような人たちばかり。ただ、最新のモーター制御技術は、やはりITの力が必須ですし、製造設計の面でもIT技術を駆使しています。

正直なところ、モーター周りは一番よく分からず、写真も上手く撮れませんでした。もう少し勉強しないといけないですね。

会場はモータ技術展を中心に、モーション・エンジニアリング展、メカトロニクス技術展、機械部品・加工技術展、電源システム展、エコ・パワーソリューション展、EMC・ノイズ対策技術展、熱設計・対策技術展、AI/IoT活用技術展が並び、さらに隣接ホールでは、国際ドローン展、駅と空港の設備機器展も同時開催していました。

かつてPC雑誌を作っていた関係で、「電源」や「放熱」といった言葉にはピクッときてしまうのですが、Nipronさんのブースでは「ディープラーニング用電源」や「データマイニング用電源」を参考出展していて、こんなものまで出ていることを初めて知りました。確かにディープラーニングやデータマイニングは、通常のサーバーよりも、長時間に渡る連続高負荷運転が必要になり、電源や排熱も特別なものを用意したほうが有利だなと気付かされます。


ディープラーニングやデータマイニング用の電源を参考出展するブース

放熱も、PCでは考えられない巨大なヒートシンクが並んでいましたし、日本ゼオンさんのブースで展示していた、シール状になっていてハサミで自由に形状を変えられ、厚みのムラを抑えられる放熱シートなどもユニークで目を引きました。


チップとヒートシンクの間に挟む放熱シートのデモの様子

電磁シールドのノイズ低減システムも興味深いものがいろいろ並んでいました。個人的に印象的だったのは、スイスのMontena社製の巨大な核電磁パルス試験システムを紹介するブースで模型を設置して、我が国の自衛隊にも導入が必要だと力説していたこと。こんなものまで出ているのかと思いました。北朝鮮の金正恩委員長が韓国の文在寅大統領と電撃会談する一週間前のことで、朝鮮半島が戦場になりそうだという機運が高まっていただけに、普段以上に説得力がありました。防衛省関係者が来場しているのかは不明ですが。


核電磁パルス試験システムの模型

一般に市販されそうなアイテムで注目したのは、ユニファイブさんのUSB PDアダプタ。いわゆるUSB Power Delivery対応の充電器です。ノートPCやスマートフォン、タブレット、デジカメ、モバイルゲーム機、外付けHDD、あるいはインクジェットプリンターなど、USBで充電する機器の対応電力数の違いを自動的に調整します。60Wや45W、30Wなど対応する電力ごとにアダプタを使い分ける必要がなく、全部1つに集約できるのはなかなか魅力。この夏から受注を開始するとのこと。


さまざまなUSBデバイスの給電に対応するUSB PDアダプタ

最後に来場者の人だかりが一番だったコンテンツに触れておきます。それは、埼玉自動車大学校さんの学生が製作した、実際の自動車のカットモデル。ホンダ レジェンドやフィット、日産 ノートなどをカッターで綺麗にカットし、内部構造を剥き出しにして見せていました。通常は見られないエンジンやモーターなどの内部も、分かるようにカットしていて、デジカメやスマホを持った手を伸ばし、接写する来場者が何人もいました。


自動車のカットモデルの展示


デジカメやスマホで熱心に撮影する来場者がいっぱい

専門性が高すぎて、普段の守備範囲を大幅に越える内容の展示会でしたが、難しくて分からない物が多いなりに視野が広がって面白かったです。

まったく新しい指紋センサーなど、攻めたデザインの製品登場が予感されるジャパンディスプレイ発表会

少し旧聞となりますが、1月23日にジャパンディスプレイ ソリューションカンパニーの発表会に出席してきました。

新型iPhoneに同社の液晶ディスプレイが採用になると噂が立ったり、昨年11月の四半期決算では赤字幅を倍増させていたりと、グループ全体では何かと注目されていますが、この日はジャパンディスプレイ ソリューションカンパニーが透明な静電容量式ガラス指紋センサーを開発したという発表です。

2018年度中の量産出荷を予定しているとのことです。ユーザーが購入する最終的な製品ではなく、製品に組み込まれる部品ですが、注目に値すると感じたので簡単にご紹介します。


静電容量式ガラス指紋センサーのデモ展示

注目するポイントは2つあります。

1つはプロダクト的な意味で、同社の開発したこの指紋センサーを採用した製品では、メーカーにとってデザインの自由度が上がること。

つまり、これまでなら指紋センサー搭載のために見送られていたデザイン案も生きてきて、よりスタイリッシュだったり、エレガントだったり、サイケデリックだったりする「攻めたデザインの製品」が登場してくる可能性が高まるわけです。


静電容量式ガラス指紋センサーの大判ガラス

もう1つはジャパンディスプレイがディスプレイ以外の領域を事業とする、スマートフォンと車載に続く第3の柱を立ち上げるということ。

同社はカンパニー制度を採用していて、通常の会社だと3つの事業部に分かれて活動しそうなところを、3つの会社に分かれて、ジャパンディスプレイ グループとして展開しています。


カンパニー制度や事業領域について説明する、執行役員 ディスプレイソリューションズカンパニー社長の湯田克久氏


ちなみに執行役員 チーフマーケティングオフィサーとして、元アクア社長の伊藤嘉明氏が参画しています

まずはデザインの自由度が上がる背景について簡単に説明します。

現在、指紋センサーはシリコン製が主流となっています。シリコン製は透明度が低く、「見るからに指紋センサー」というパーツになりがちです。ジャパンディスプレイの開発したガラス製はシリコンにはない透明性が活かせるため、バックライトやディスプレイと組み合わせやすく、従来なかった形の指紋センサーを可能にします。


静電容量式ガラス指紋センサーの仕様

例えば、バックライトと組み合わせることで認証が成功すれば青、失敗すれば赤に光るといったギミックは実施しやすく、よりユーザビリティの高いユーザーインターフェイスが作れそうです。

複数の指を一度にセンシングでき、曲面でも認証できるようになるとのことなので、両手で持つボール型のデバイスで10本全部の指紋を一度に取るようになるかもしれません。そうすると、たとえば入管などで一人ひとりセンサー付きのサッカーボールを両手で持たせて指紋を取る、なんて時代が来るかもしれません。

他にも、パソコンやスマートフォンなどのタッチ対応液晶画面が、そのまま指紋センサーとして機能すると便利そう。特定の領域だけでなく、広い範囲に大雑把に指を当てれば良くなれば、指紋を当てるために持ち替えたり、センサー付近をいちいち拭いたりといったことも少なくなるでしょう。ただ、いきなりこれを実現しようとするとコストが掛かってしまいそうですが。


複数の指を一度にセンシングできたり、曲面で認証できるように

発表会の会場には、デモンストレーションを多数展示していました。今回発表された指紋センサー以外の、ジャパンディスプレイ ソリューションカンパニーのコンテンツが色々並んでいたので、これらは写真で紹介しておきます。

展示物に未来感があって、ちょっとした展示会のようで興味深い説明会でした。


ノートパソコン向けディスプレイ。13.88インチで3000×2000ドット、260ppiを実現


横から見たところ、薄くてベゼル幅も狭いことがよく分かります。視野角が広いのも好印象


こちらは13.3インチで3840×2160ドット、332ppiのディスプレイです


1920×RGB×2160ドット、803ppiの解像度に対応した、VR専用高精細液晶ディスプレイ搭載のヘッドマウントディスプレイ


写真は片目を覗いた様子です。こんな感じの動画が再生されていました。リフレッシュレートは90Hz。高解像度なので片目だけでもすこぶる高い立体感が得られています


E-Ink横長棚札の展示。まずは海外から展開していく予定だそうです


E-Inkなので表示の切り替えにはちょっと時間が掛かります。アニメーションは難しいですね。しかし、低消費電力で表示でき、管理も容易だとのこと