サトーホールディングスさんがBtoB向けに開発したフルーツの食べ頃判定機「coro-eye」のメディア向け説明会に出席しました。
サトーホールディングスさんは、一般消費者にはあまり馴染みのない企業ですが、1960年代にハンドラベラーを発明して大きなシェアを握り、小売の店頭用のバーコードやICタグ、RFID等の作成や自動認識技術で、世界の最先端を行く機械メーカーの1つです。
そんなサトーホールディングスさんですが、ユニークな機器も開発しています。それが、フルーツの食べ頃を判定する機械「coro-eye(コロアイ)」です。クラウドと連動して利用し、サービス名も「coro-eye」となります。
2018年に発表されているもので新製品ではないのですが、説明会では食べ頃判定の仕組みや、リリース後の市場の反応、どのような場所で導入されているのか、農家の反応などといった情報が提供されました。
自分でフルーツを購入した経験のある人なら分かると思うのですが、食べ頃を見分けるのって意外と難しいんですよね。売り場で販売員に聞いて買ったとしても、フルーツは足が早いものが多いので、買ってきてさっさと食べたらまだ早かった…なんてことはよくある光景でしょう。まして、誰かから戴いた物だったりすると販売員に聞くこともできず、手に持った感触と表面の色艶などを見ながら、最終的には勘で判断するわけです。
開発を担当した、T4Sビジネスラボ 専門部長(coro-eye担当)の佐渡真一さんによると、消費者の約半分は食べ頃で失敗した経験を持ち、その7割がサイレントクレーマーになると言います。サイレントクレーマー化とは、購入店や生産元に苦情を言わず、ただ「もう買わない人になる」ことを意味します。これは販売側からするとクレームを付けられるより怖いことなのです。
このため、販売者は消費者が食べ頃の見分けやすい商品を提供しようとします。たとえば南国のフルーツであるマンゴーは、国内で流通する品種のほとんどが「アップルマンゴー」と呼ばれるもの。これは熟れてくると皮の色が変わるため流通しやすいのだそう。逆に熟れても皮の色がほとんど変わらない「キーツマンゴー」は流通しづらいと言います。私はマンゴーに種類があることすら知りませんでしたよ。
「coro-eye」は微小振動による共振現象の変化を利用して、果肉の硬さを判断する仕組みで、同社では非破壊硬度測定器と呼んでいます。佐渡さんはフルーツを傷つけることなく、中身の熟れ具合を可視化できないかという発想から開発したと語っていました。
フルーツの種類によって振動させる周波数が異なるため、測る前にどの果物を測るか、プルダウンメニューから選ぶようになっています。ここで果物ごとの関数データをクラウドから取得しています。「軟化関数」という言葉も初めて聞きました。
なお、ブドウ、イチゴ、温州みかんは測定できないそう。ブドウは房に幾つも実が付いているためで、温州みかんは皮と実の間に空間があって振動が一定しないためとのこと。なるほど! イチゴがなぜなのかはうまく聞き取れなかったのですが、皮がないからでしょうか。栗とかどうなんでしょうね。栗の実の食用になる部分って実は種ですし。
測定した情報は再びクラウドに送られ、ラベルプリント用に加工されて出力、シールを果物の皮やパッケージに貼ることで、何日後が食べ頃なのか誰もがひと目で分かるようになります。
佐渡さんは食べ頃の可視化により、消費者の失敗をなくし、家庭からの廃棄ロスが減り、社会課題であるフードロス解消に貢献できると意気込んだものの、2018年にリリースした直後は、事業者の理解がなかなか得られなかったそうです。
熟れ頃を見分けるのは、その道のプロが経験を積んで会得する言語化の難しいスキルで、いわばブラックボックスの情報。それが数値化されると困る人が、それなりにいることを実感したとのことでした。
その後はネットスーパーと連携して、商品に食べ頃ラベルを貼ることで、きちんと選ばれていること、食べ頃である時期を証明し、消費者の見えない不安を払拭するなど、地道に普及活動を続けています。小売店で売り場にcoro-eyeの装置を置いて、消費者が自分で測定できる体験型の展示をしてくれるところも出始めており、いつか皆さんの近所のスーパーマーケットなどで目にする機会もあるかもしれません。
果物は年齢層によっても消費スタイルが異なります。私のイメージですが、高齢層のほうがフルーツの消費には前向きではないでしょうか。フルーツはかさばるし、放っておくと傷んで腐るし、皮や種などのゴミも出るので、若年層は食べるのが好きでもストックはしたがらないのではないかと感じます。また、食べ慣れていないと食べ方がわからない人もいるでしょう。
常識と思われるような情報でも、小売の現場ではさり気なく教えるような工夫が必要なのかもしれないと感じました。coro-eyeは家電になるにはまだまだハードルの高い製品ですが、スーパーの青果コーナーなどで当たり前のように見かけるようになれば、BtoBtoCな製品として身近になれるのではないかと思います。日本企業の技術力の高さと発想の柔軟さが感じられる説明会でした。